毎日新聞は10月3日付朝刊で、自民党が前日発表した衆院選の公約について論評する社説を掲載した。その中で、自民党の選挙公約から「国と地方の基礎的財政収支黒字化目標の『20年度』は削除され、女性の活躍の文字も消えた。過去の公約を総括せずに新たな政策を繰り出しても、また中途半端に終わるのではないか」と指摘した箇所があった。しかし、自民党が選挙公約として発表した「政策BANK2017」には「女性活躍」という項目があった。
日本報道検証機構が毎日新聞社に指摘したところ、同社広報担当者は「自民党の重点公約として示されているものには2014年にあった「女性活躍」が抜けています。別冊の政策BANKには、確かに「女性活躍」が残っていますが、自民党自身が強弱をつけて格下げした以上、公約から消えたという表現が誤りだとは考えていません」と回答し、紙面上もニュースサイトの記事も訂正しなかった。
なお、同社説の自民党公約に関する他の記述には、誤りはなかった。
「政権公約」パンフレットに「女性活躍」記載 女性活躍推進法は施行済み
たしかに、2014年衆議院総選挙(12月14日投開票)の「政策パンフレット」では「女性活躍」が大きく取り上げられていたが、今回の衆院選「政策パンフレット」には載っていなかった。「政策BANK」の記載も、2014年衆院選や2016年参院選と比べると減少していた。
だが、自民党の選挙パンフレットには2種類ある。簡易版の「政策パンフレット」(18ページ)には「政策BANK」は省かれている。だが、「政権公約2017」と題するもう一つのパンフレット(38ページ)には「政策BANK」も掲載されている。岸田文雄政調会長が2日、記者発表した時も、ホームページに両方掲載されていた。したがって、自民党の公約から「女性の活躍の文字が消えた」というのは事実と異なる。
しかも「女性の活躍の文字が消えた」というと、今後この政策を推進しないかのような印象を与える可能性もある。実際には法律が制定・施行されているため、政策は今後も継続していくと考えられる。
「女性活躍」政策は、第2次安倍政権の柱の一つとして2013年から打ち出され、「若者・女性推進フォーラム」(同年2~5月)、「輝く女性応援会議」(2014年3月~)などが相次いで設置された。2015年からは「女性活躍加速のための重点方針」を毎年策定。2016年4月には女性活躍推進法が施行された。これによって女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表などが国、地方公共団体、大企業に義務付けられた。
【楊井人文、井澤謙一】
社説 日本の岐路 自民党の選挙公約 再び検証を欠く上書きか
自民党がきのう衆院選の公約を発表した。
北朝鮮の脅威を強調して指導力を強くアピールし、消費税増税の増収分を新たに教育無償化に振り分けることを訴えたのが柱だ。
安倍晋三首相(自民党総裁)の意向を強く反映した内容といえる。
だが、唐突な衆院解散表明からわずか1週間である。どこまで党全体で議論され、共有された方針なのか。疑問がある。
自民党は2014年衆院選で大胆な金融政策や成長戦略などの「三本の矢」を旗印にアベノミクス推進を公約した。
2年後の16年参院選では「1億総活躍社会」を掲げ、待機児童対策を重点化した。アベノミクスを「最大限ふかす」とも約束した。
今回は「生産性革命」「人づくり革命」という新たなフレーズをアベノミクスのエンジンと位置付ける。
あの手この手で看板を差し替えては耳目を引こうとしてきたのが安倍自民流の選挙公約である。
一方で、国と地方の基礎的財政収支黒字化目標の「20年度」は削除され、女性の活躍の文字も消えた。
過去の公約を総括せずに新たな政策を繰り出しても、また中途半端に終わるのではないか。そんな疑念を持たれても仕方ないだろう。(以下、略)毎日新聞2017年10月3日付朝刊
- (初稿:2017年10月12日 19:00)