東京新聞は2月6日付朝刊特報面に「『日の丸』買収 シャープの厳しい未来 台湾の『親日』の虚実」と題する長文記事を掲載した。その中で、台湾が対日感情や日台関係の歴史に関連して、藤井省三・東京大教授のコメントとして「日本支配をすべて否定している韓国と比べ、台湾は相対的に親日と言えるが、主体性確立のために、日本を利用しているだけだ」と記していたが、「相対的に親日と言えるが、それは台湾人による主体的な選択だ」の誤りだったとして、2月9日付朝刊で訂正した。これによって「日本を利用している」というコメントは削除されたが、見出しにあった「日本利用」という表現は訂正されなかった。
記事には「鴻海の収益、中国大半」「対中戦略 日本利用」という見出しも掲載。シャープを買収する意向を示している鴻海(ホンハイ)精密工業について、丸山哲史・明治大教授が「台湾の貿易額が最も多いのは中国。鴻海は中国国内から大半の収益を得ている。シャープ買収は、中国との取引が拡大し、影響力が強くなりすぎることを懸念して、グローバル企業として日本とも関係を持とうと、バランス感覚を発揮しただけではないか」と述べたコメントも掲載されていた。
しかし、台湾の経済や企業に詳しい朝元照雄・九州産業大学教授によると、鴻海精密工業の主な取引先は、アップル、インテル、ヒューレット・パッカード、デル、シスコ、ノキア、ソニーといった欧米や日本企業で、こうした企業からパソコン、通信機器、スマートフォンなどを受託製造している。朝元教授は、鴻海のビジネスモデルについて「海外大手のブランド企業から製造を受託し、中国で安価な労働力の大量投入による規模の経済効果(薄利多売)によって達成したもの」と評している。中国や台湾など各地に工場があるが、収益源は欧米企業との取引(製造受託)にある。したがって、「鴻海の収益、中国大半」「対中戦略 日本利用」という見出しや丸山教授のコメントは、鴻海精密工業の収益が中国企業との取引によるものが大半であるかのような誤った印象を与えるおそれが高い。
東京新聞編集局は、日本報道検証機構の質問に対し「ご指摘のような事実誤認等があるとは考えておりません」と回答した。また、明治大の広報を通じ、丸山教授にも質問したが、回答は得られなかった。
東京新聞2016年2月6日付朝刊27面
東京新聞2016年2月9日付朝刊29面
「岐路に立つ鴻海(ホンハイ)の“勝利の方程式”―世界第1位の EMS 企業の選択―」
…(略)…
Ⅰ.鴻海 EMS ビジネスの経営モデル
鴻海の製品はパソコン(computer)、通信機器(communications)、消費性電子機器(consumerization)などの「3C 産業」の多くの領域に及んでいる(最近では自動車(car)電子部品を入れて、4 C 産業とも言われている)。現在の主力製品はコネクター、機器の筐体、CPU ファン、有線・無線通信機器、バッテリーパッド(電源供給器)ユニット、マザーボード、ベアボーンキット、ネット・ケーブル、液晶パネルなどの電子機器受託製造を行っている。
具体的には、インテルと AMD のマザーボードとコネクター、デル(Dell)とヒューレット・パッカード(HP)のパソコン、HP のインクジェットプリンター、ソニーのテレビ「プラビア」、ソニー・コンピュータエンタテインメントのプレイステーション3(PS3)およびプレイステーション・ポータブル、任天堂のニンテンドー DS および Wii(ウィー)、マイクロソフトの Xbox360 などの家庭用ゲーム機、ノキア(Nokia)、モトローラおよびソニーモバイルコミュニケーションズなどの携帯電話、アップルのiPhone、iPad、iPod シリーズおよびパソコンの MacBook Air、シスコ(Cisco)のネット設備と携帯電話、ソフトバンク BB のADSL モデム・光 BB ユニットなどの世界の著名な大手電機企業から製造を受託している(表1)。…(以下、略)…
「交流」2013年5月号
- 鴻海精密工業ホームページ
- 鴻海精密工業 (理財網)
- (初稿:2016年3月20日 06:30)
- (修正:2016年3月20日 10:58)誤報レベル欄の「誤報の深刻性」が「誤報の可能性」となっていたため、修正しました。