産経新聞は10月24日付朝刊で「民主、臨時国会要求で”ブーメラン”」と見出しをつけた記事を掲載し、内閣法制局長官が国会答弁で臨時国会召集の見送りの違憲性を否定していると報じた。しかし、その根拠とされた国会答弁は、原則として召集のために必要な合理的な期間内の召集が必要で、この期間内に通常国会の召集が見込まれる場合にはあえて臨時国会を召集しなくても違憲にならないと述べたものだった。産経が報じたように、前提条件をつけずに臨時国会召集の見送りを合憲との見解を示したものではなかった。日本報道検証機構は産経新聞に質問したが、回答はなかった。10月30日現在、記事は訂正されていない。
産経の記事が言及したのは、2003(平成15)年12月16日の参議院外交防衛委員会(閉会中審査)における秋山収内閣法制局長官の答弁。秋山長官は「合理的な期間内に常会の召集が見込まれるというような事情がありましたら、国会の権能は臨時会であろうと常会であろうと異なると、異なるところはございませんので、あえて臨時会を召集するということをしなくても、憲法に違反するというふうには考えておりません」と発言していた。しかし、産経の記事ではこの前半部分を省略し、「あえて臨時会を召集するということをしなくても、憲法に違反するというふうには考えておりません」という部分だけ切り取っていた。この発言を踏まえ「憲法の規定に基づく要求があっても臨時国会を召集しないことについて、『立憲主義』の観点から合憲とのお墨付きを与えた」と指摘していた(この記述は紙面の記事では省略されている)。
憲法53条後段は「いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」と規定しており、召集要求があった場合にいつまでに召集すべきかは明記していない。しかし、秋山長官は「いつ召集してもいいということではもちろんございません」と内閣の裁量に一定の限界があることを指摘。「臨時会の召集要求があった場合に、仮にその要求において召集時期に触れるところがあったとしましても、基本的には、臨時会で審議すべき事項なども勘案して、召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うことを決定しなければならない」と述べ、召集要求があった場合は「召集のため必要な合理的な期間」内の召集が必要との考えを示していた。
民主、維新、共産、生活、社民の野党5党は10月21日、政府に対して臨時国会の開会を求める要求書を提出。10月7日に内閣改造が行われたため、国会として新閣僚らに所信を質していく必要があるとしている。これに対して菅義偉官房長官は、与党と協議して最終的に決定すると述べ、明言を避けている。
産経新聞ニュースサイト2015年10月24日掲載(10月30日18:00閲覧確認) ※10月24日付朝刊5面にも掲載あり
政府参考人(秋山收君) 憲法第五十三条の問題でございますので、一般的な考え方を御説明いたしたいと思います。憲法五十三条後段は、「内閣は、」その要求があった場合に「その召集を決定しなければならない。」と規定しておりますが、召集時期につきましては何ら触れておりませんで、その決定は内閣にゆだねられております。このことから、いつ、いつ召集してもいいということではもちろんございません。臨時会の召集要求があった場合に、仮にその要求において召集時期に触れるところがあったとしましても、基本的には、臨時会で審議すべき事項なども勘案して、召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うことを決定しなければならないというふうに考えられているところでございます。もっとも、この合理的な期間内に常会の召集が見込まれるというような事情がありましたら、国会の権能は臨時会であろうと常会であろうと異なると、異なるところはございませんので、あえて臨時会を召集するということをしなくても、憲法に違反するというふうには考えておりません。参議院外交防衛委員会平成15年12月16日
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
- 野党、臨時国会の開会を求める要求書を衆参両院に提出 (民主党 2015/10/21)
- 内閣法制局長官が臨時国会召集要求に応じなくても違憲ではないと答弁したというのは本当か? (Yahoo!ニュース個人、南野森 2015/10/25)
- (初稿:2015年10月30日 18:37)