毎日新聞は1月5日付朝刊1面トップで、「ビキニ水爆実験 厚労省 船員被ばく追跡調査 福竜丸以外で初」と見出しをつけた記事を掲載した。記事は、厚生労働省が近く、1954年のビキニ環礁での米国の水爆実験時に周辺で操業していた「第五福竜丸」以外の船員の健康影響調査に乗り出すと報じている。周辺操業船の放射能汚染検査に関する当時の文書が昨年大量に見つかったことを踏まえ、塩崎恭久厚労相は6日、専門家の検証を行う方針を示した。しかし、厚労省としては船員個々人の調査を実施する予定はないとしており、「追跡調査」という表現は不正確で誤った印象を与えるおそれがある。
社会面の関連記事「ビキニ水爆実験60年 追跡調査 なぜもっと早く」にも「国がようやく追跡調査に乗り出す」と記載されているが、「追跡調査」の意味は明確でない。1面本文の「国はこれまで福竜丸以外の船員の追跡調査をしてこなかった」「国がようやく着手する第五福竜丸以外の船員の調査は、病歴や死因を含めて一人一人の状態にどこまで踏み込むかが焦点になる」といった記述から、船員一人一人の健康調査と一般読者に理解される可能性が高い。文末には、厚労省が予定している内容について「専門家らを集めた研究会を設置し、同省の記録に基づき当時の被ばく状況を推計するとともに、福竜丸の状況と比較する」「(民間の研究グループが行った)船員の歯や染色体異常の検査も聞き取り調査する」と言及しているが、これが記事が「追跡調査」と呼んだ調査の中身なのかは判然としない。
この報道について塩崎厚労相は会見で、昨年厚労省が開示した資料について専門家に検証してもらう考えを明らかにしたが、船員の健康調査には言及しなかった。同省健康局総務課の担当者も日本報道検証機構の取材に対し、専門家の検証を検討していることは認めたものの、福竜丸の船員に対して行ったような船員個々人の健康調査を行う予定はなく、「具体的に何をやるかは白紙」と答えた。
これまで福竜丸以外の元船員生存者を探し出し検査を実施するなど文字通り「追跡調査」を実施してきた「太平洋核被災支援センター」の山下正寿事務局長は、「追跡調査を行うにはまず当時の船員の行方を調べる必要があり、国なら調査できる。だが、厚労省は我々がしてきたような追跡調査を行うとの話は聞いておらず、専門家の検証で済ませるのではないか」と話している。
毎日新聞の社長室広報担当は、当機構の質問に「当社の取材によれば、厚生労働省は、被ばく当時の放射線検査記録を現在の基準で線量評価したり、当時の船員を対象として最近実施された歯や染色体異常の検査について聞き取り調査をしたりすることを予定しており、記事に何ら誤りはなく、訂正の必要はないと考えます」と回答したが、「追跡調査」という表現をどういう意味で用いたのかについては明確な回答がなかった。
毎日新聞2015年1月5日付朝刊1面トップ
- ビキニ水爆実験:船員被ばく追跡調査 福竜丸以外で初(毎日新聞ニュースサイト 2015/1/5 07:30)
Q.昨年市民団体の情報公開で、第五福竜丸以外の船員の方の被ばくの状況というのが、厚労省の部署で公開されましたけれども、国会でも第五福竜丸以外の船員の方に関する健康の状況というのを調査すべきじゃないかという声が。厚労省の今の考え方としては、どのような取組をしようと考えておられるのでしょうか。
A(塩崎厚労相).かつて開示をされていなかったものについて、資料を開示したというところがまずスタートとしてあるわけで、それについて専門家に評価をしてもらおうということで、この資料について検証してもらうということを今我々は考えているわけでありまして、まずはそこからスタートということではないかというふうに思っています。
Q.専門家の評価はいつごろから始めて、今後その評価をどうつなげるという見通しはありませんでしょうか。
A.今、事務方の方でいろいろどういうことが可能なのかということを検討中でありますので、今後事務方の方からどういうまとめができて、どうするかということが出てくるんじゃないかなというふうに思っています。塩崎恭久厚生労働大臣定例記者会見(2015年1月6日午前)(厚生労働省)
- 被ばく船員の検査記録存在=第五福竜丸以外も、556隻-ビキニ水爆実験で・厚労省(時事通信 2014/9/19 21:15)
- ビキニ水爆実験被災船員の健康被害データの開示について(福島みずほのどきどき日記 2014/11/13)
- ビキニ事件の実相と福島原発被災との関連調査・研究(高木仁三郎市民科学基金)
- (初稿:2015年1月8日 05:10)
- (追記:2015年1月8日 05:55)参考情報を追加しました。
- (修正:2015年1月8日 12:27)変換ミスを直しました。