選挙区間の1票の格差が最大4.77倍だった2013年参院選の定数配分の合憲性が争われた裁判で、最高裁判所大法廷は11月26日、選挙当時の格差は違憲状態だったが、是正されなかったのは違憲ではないとの判決を出した。これを報じた一部報道に対し、自民党が「完全な誤り」があると訂正を求める文書を記者クラブに配布していたが、日本報道検証機構が調査した結果、指摘された部分に誤りはなかった。(注:判決では「較差」と表記するが、この記事では慣例に従い「格差」と表記した。)
文書の存在は12月5日発売の週刊誌フライデー(12月19日号)が特報。当機構も同じ文書を入手した。「選挙区間較差問題についての誤報、誤解について」と題する文書で、2014年11月27日の日付は入っているものの、差出人、名宛て人の記載はなかった。自民党関係者によると、文書は党選挙制度改革問題統括本部で作成され、自民党の記者クラブ(通称、平河クラブ)に配布したものだという。
自民党が記者クラブに出した訂正記事を求める文書
文書が「完全な誤り」と指摘したのは、最高裁判決の内容を報じた毎日新聞11月27日付朝刊1面トップ記事「13年参院選『違憲状態』 最高裁 無効は認めず」。本文最後の段落に「1票の格差は、議員1人当たりの有権者数で計算する」という記載があるが、文書は、選挙区間格差の計算根拠は「国勢調査人口(確定値)」であり、「有権者数は現在20歳以上の者のみの数値であり、憲法解釈の基礎となり得ない」などと指摘している。
毎日新聞2014年11月27日付朝刊1面トップ(訂正を求められた記事)
しかし、11月26日の最高裁判決文は、「立法当時」の選挙区間格差については議員1人当たりの「人口」の最大格差を取り上げる一方、「選挙当時」の選挙区間格差については議員1人あたりの「有権者数」(判決では「選挙人数」と表記)の最大格差を取り上げていた。今回の裁判で「違憲状態」と判断された2013年参院選の最大格差「4.77倍」という値も、選挙実施時の議員1人あたりの「有権者数」を基準に算出されたもので、自民党の文書が指摘するように「国勢調査人口」を基準としたものではなかった。11月27日付毎日新聞の記事のうち、「1票の格差は、議員1人当たりの有権者数で計算する」という記述は、選挙実施時点の格差に関する説明として誤りではない。
毎日新聞社社長室広報担当者は当機構の問い合わせに対し、この記事について「誤りはない」との見解を示した。文書を把握した経緯や対応については、「取材の過程で入手する情報等に関する質問にはお答えしておりません。なお、本文書は本紙の報道に何ら影響をあたえておりません」と回答した。
- (初稿:2014年12月12日 18:08)